ポケット労働法2008       PDF版はこちら

目次

第1章 就職するときに
1.労働法とは
2.労働契約を結ぶとき ━労働条件ははっきりと━
3.労働契約に会社がつけてはならない条件とは
4.労働組合に入らなければならないという条件があるとき
5.労働条件が約束と違っていたら

第2章 働く人、雇う人のルール
1.就業規則とは
2.合理的な理由なく労働条件を労働者に不利に変えることはできない
3.最低賃金の保障
4.賃金支払いの5つの原則
5.減給の定めの制限
6.年俸制と賃金
7.会社が倒産して賃金が支払われないとき ━未払い賃金の立替払い制度━
8.男女雇用機会均等法
9.母性を守るために ━産前産後の休業・生理日の休暇━
10.パートタイマーにも労働法は適用される

第3章 労働時間と休日・休暇
1.労働時間は週40時間制が原則
2.変形労働時間制
3.みなし労働時間制
4.休憩時間は全員いっせいに、その利用は自由に
5.労働から離れる日 ━休日━
6.残業・休日労働
7.残業・休日労働の割増賃金
8.年次有給休暇は労働者が自由に利用できる
9.パートタイマーなどへの年次有給休暇の比例付与

第4章 育児・介護休業法
1.育児関連
2.介護関連

第5章 派遣労働
1.派遣労働とは
2.派遣労働の類型

第6章 労働組合
1.労働組合はどんな団体か
2.労働組合の要件
3.労働組合のいろいろな活動 ━団体交渉など━
4.労働協約 ━労働条件をよくして労働者の地位を高める制度━

第7章 安全衛生と労災保険
1.安全衛生
2.労災保険

第8章 雇用保険と健保・年金

1.雇用保険
2.健康保険
3.公的年金制度

第9章 退職・解雇のときに
1.退職のルール
2.解雇
3.労働契約が終了すると
4.定年と高齢者の働きかた

この資料は平成20年6月
東京都産業労働局雇用就業部労働環境課(東京都新宿区西新宿2-8-1)
によって発行された「ポケット労働法2008」を転載(一部省略)したものです。




第1章 就職するときに

1-1 労働法

労働基準法
  労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことができるように、労使が守るべき最低限の基準を示したものが労働基準法です。労働基準法では、労使は、労働基準法で示した労働条件の基準を単に守るだけではなく、これを改善向上するように努めなければならないと示しています。
 さらに、労働基準法では、本来、労働条件とは、労使がお互いに対等の立場で決定すべきものであることを示しており、労使間で取り決めた労働協約や労働契約等は、これを誠実に遵守するよう義務付けています。

労働契約法
  労働契約法は、労働契約の成立から終了まで、労働契約が円滑に継続するための基本ルールを定め、個別の労使関係の安定を図ることを目的としています。

最低賃金法
  最低賃金法では、労働者の生活の糧となる賃金の最低額を保障することによって、労働条件の改善向上を図り、これによって労働者の生活の安定を図ることを目的としています。

労働安全衛生法
  労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています。事業主は、単にこの法律で定める労働災害防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保するように示しています。

職業安定法
  職業安定法は、公共職業安定所及び職業紹介事業者等に対して、「職業選択の自由」の尊重や「差別的取扱の禁止」などの職業紹介等の基本ルールを定め、職業の安定を図ることを目的としています。

雇用保険法
  雇用保険法は、労働者が、働く意思と働く能力があっても、何らかの理由によって職に就くことができないときに、再就職するまでのあいだの生活を安定させ、就職活動を円滑に行うことができるよう支援することを目的としています。
  雇用保険給付には、求職者給付(失業手当)だけではなく、就業中であっても受給することができる教育訓練給付などもあります。

労働組合法
  労働組合法は、労働者が団結して労働組合をつくり、団結の力を背景に、使用者と対等の立場に立って、労働条件をより良いものとするための活動を保護することを目的としています。
  労働組合の活動には、労働条件をより良くするために使用者側と話し合う団体交渉や、その話し合いを有利に進めるために、団結の力を示すストライキなどがあります。

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1-2 労働契約を結ぶとき  
労働条件ははっきりと
  ある会社に就職が決まると、就職しようとする人と会社との間で、労働契約を締結します。労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者と使用者が合意することにより成立します。
  労働契約を結ぶときには、毎月の賃金、労働時間、休憩時間、休日、年次有給休暇、残業の有無など、あらかじめ決めておかなければならないことがたくさんあります。それらをすべて口頭で済ませてしまうと、後に「言った、言わない」のトラブルのもとになりかねません。
  このようなトラブルを防ぐため、労働基準法第15条では、使用者に対して、労働契約を結ぶときには労働者に労働条件を明らかにすることを義務付けており、特に、次に示す@〜Dまでの事項については、書面を交付しなければなりません(同法施行規則第5条)。
  なお、@〜D以外の労働契約の内容についても、使用者はできる限り書面により確認するものとされています(労働契約法第4条第2項)。
明示しなければならない事項

必ず明示しなければならない事項 @ 労働契約の期間に関すること
A 仕事をする場所、仕事の内容
B 仕事の始めと終わりの時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換(交代制勤務のローテーション等)
C 賃金の決定、計算と支払いの方法、締切りと支払いの時期
D 退職に関すること(解雇の事由を含む)
E 昇給に関すること
* @〜Dまでは書面で明示しなければならない
制度を設ける場合に
明示しなければならない
事項
F 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法と支払いの時期
G 臨時に支払われる賃金、賞与及び最低賃金額に関すること
H 労働者に負担させる食費、作業用品などに関すること
I 安全・衛生
J 職業訓練
K 災害補償・業務外の傷病扶助
L 表彰・制裁
M 休職


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1-3 労働契約に会社がつけてはならない条件

賠償予定の禁止(労働基準法第16条)
  労働者が、契約期間の途中で会社を退職したときや、労働者の不注意で会社の備品を壊してしまったときには、ペナルティとしていくら支払う、というように、あらかじめ労働契約に賠償額を決めておくことは認められません。
  ただし、労働者が故意・過失により、会社に損害を与えた場合には、損害賠償義務がなくなるわけではありません。

前借金相殺の禁止(同法第17条)
  使用者が、労働者に賃金を前貸しして、前借りした賃金は毎月の賃金から返済させるようにし、借金が残っている間は退職することができないようにする、という行為は許されません。

強制貯金(同法第18条第1項、第2項)
  使用者が、労働者に賃金の一部又は全部を強制的に会社に積立てさせる行為は、会社への不当な足止めにつながり、また賃金の全額払いの原則にも反し、認められません。
  ただし、「社内預金」のように、会社が、労働者の意思に基づいて、賃金の一部を天引きして管理することは、会社が、労働基準監督署長へ労使協定を届け出ることによって認められています。

契約期間(同法第14条)
  労働契約を結ぶときに、あらかじめ雇用期間を定めておく有期労働契約を結ぶときには、3年(次の@、Aに該当するときには5年)を超える労働契約を結んではなりません(例外として「ある事業が完了するまで」という契約を結ぶときには、3年を超える契約を結ぶことが認められています)。

@ 高度な専門的知識、技術、経験を持っている労働者との間に結ぶ労働契約
* 「高度な専門的知識」を持っている人とは、博士課程修了者や、公認会計士や弁護士の資格を持っている人などです。
A 満60歳以上の労働者との間に結ぶ労働契約

  なお、1年を超える有期労働契約を結んだ労働者は、当該労働契約の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ることによって、契約期間の満了前であっても退職することが認められています(暫定措置)。

黄犬契約(憲法第28条、労働組合法第7条第1項)
  日本国憲法では、労働者が団結する権利、団体交渉する権利、その他労働組合の様々な活動をする権利を保障しています。
  この憲法の理念を実現するため、労働組合法では、使用者に対して、労働組合に加入しないこと、あるいは労働組合から脱退することを雇用条件とするような契約(黄犬契約)を結ぶことを禁止しています。

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1-4 労働組合に入らなければならないという条件があるとき

  「会社に入ったら、労働組合にも加入しなければならない」という、労働組合と会社との労使協定のことをユニオン・ショップ協定といいます。
  ユニオン・ショップ協定が結ばれている場合には、労働者が労働組合から脱退したり、除名させられたことなどによって組合員資格を失ったときには、会社はその労働者を解雇しなければなりません。しかし、ユニオン・ショップ協定があっても、会社に特別な事情があるときや、労働組合と会社が話し合って決めたときは、会社はその労働者を解雇しない、と決めている場合も多く見受けられます。
  なお、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の組合員が、その組合を脱退して別の組合に加入した場合、あるいは労働者が新たに労働組合を結成した場合については、ユニオン・ショップ協定の効力はこれらの労働者には及ばない、と考えられています。

1-5 労働条件が約束と違っていたら
  労働契約を結んで実際に働き始めたところ、あらかじめ示された労働時間よりも長く働かされたり、安い賃金で働かされた。というように、労働契約の内容と実際の労働条件が違っていた場合はどうしたらよいでしょうか。
  このような場合において、もし、今後もその会社で働き続けることを希望しているのであれば、会社に対して、労働契約の内容を誠実に守ってもらうように要求しましょう。
  しかし、その会社で働き続けるつもりがないのであれば、労働基準法では、あらかじめ示された労働契約の内容と、実際の労働条件が異なっていたことを理由に、ただちに労働契約を解除することを認めています(労働基準法第15条第2項)。この場合には、たとえ雇用期間をあらかじめ定めておく有期労働契約の契約期間途中であっても、退職することが認められています。
また、その会社に就職するために住居を移転した者が、契約内容と実際の労働条件が違っていたことを理由に退職し、その後14日以内に元の住居地に戻るような場合には、労働基準法では、会社が労働者が転居するのに必要な旅費を負担するよう義務付けています(同法第15条第3項)。


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第2章 働く人、雇う人のルール

2-1 就業規則とは
  就業規則とは、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律、そのほか労働者に適用される各種の定めを明文化したもので、いわば職場における法律のようなものです。
  小規模の会社では、就業規則を作成していない場合もありますが、明文化した規定がなく、労働条件がそのつど決められるようでは、トラブルが生じる原因になりかねません。大勢の人の集まりである会社の秩序を守り、統一的に事業を運営していくためには、労働条件や服務規律などを明らかにした就業規則を作成することが必要です。
  なお、就業規則の作成から周知までの一連の手順をすべて会社の自由に任せたのでは、何らかのトラブルが起こりかねませんので、労働基準法では、就業規則の作成手続きや行政官庁への届出、労働者への周知等について、次のように定めています。

就業規則の作成義務(労働基準法第89条)
  常時10人以上の労働者(いわゆる正社員だけではなく、パートタイマーや契約社員なども含まれます。)を雇用している会社は、必ず就業規則を作成して、労働基準監督署長に届け出なければなりません。また、就業規則を変更したときも、労働基準監督署長への届出が必要です。就業規則の届出は事業場ごとに行うのが原則ですが、一定の条件を満たしていれば、本社が一括して労働基準監督署長に届け出ることも認められています。
  なお、従業員が10人未満でも、就業規則を作成する方が望ましいことは言うまでもありません。

就業規則に定めなければならないこと(同法第89条)
  就業規則には、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替勤務をさせる場合の就業時転換に関する事項、賃金及び退職に関する事項(解雇の事由を含む)について、必ず記載しておかなければなりません。
  また、退職手当の規定を設けるときには、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払い方法等を、また、臨時の賃金(賞与等)に関すること、安全衛生や災害補償に関すること、表彰や制裁に関することについて何らかの定めを設けるときには、そのことを就業規則に記載しておかなければなりません。

労働者からの意見聴取(同法第90条)
  就業規則を作成又は変更するときには、会社は、労働者側の意見を聴かなければなりません。「労働者側」とは、その会社(複数の工場や営業所を持つ会社では、その事業場ごと)の労働者の過半数で組織する労働組合、これがないときには労働者の過半数を代表する者(選挙などで民主的に決める必要があります。)をさします。作成した就業規則を労働基準監督署長に届け出るときには、労働者側の意見書を添付しなければなりません。

法令及び労働協約との関係(労働契約法第13条、労働基準法第92条)
  会社は、就業規則の作成にあたり、法律に違反することや、労働基準法で定められた基準を下回る労働条件を定めることはできません。また、規律に違反した労働者への制裁の規定を定めるときも、公序良俗(世間一般で重んじられている秩序や、善良とされる風俗)に反してはなりません。
  就業規則に示された労働条件は、会社が会社の立場で定めたものですが、労働者は、さらにより良い労働条件にするため、労働組合を結成し団結の力を背景に、会社と話し合いを行います。この話し合いを団体交渉といいます。団体交渉の結果を文書にし、両当事者が署名又は記名押印したものが労働協約です。労働基準法では、労働協約に抵触する就業規則は、その部分について無効であると定めており、労使間の合意によって作られた労働協約に強い効力を認めています。

就業規則と労働契約との関係(労働基準法第12条)
  労働契約法では、就業規則とは別に、労使の間で個別に労働契約を結んでいて、その内容が就業規則で定めた基準を下回っているときには、その部分について無効である、と定めています。

就業規則の周知(労働基準法第106条)
  会社は、就業規則のほか労働基準法、及び労働基準法に基づくすべての労使協定等を、次のいずれかの方法によって労働者に周知しなければなりません。

@ 常時、各作業場の見やすい場所へ掲示するか、各事業場に備え付けておく。
A 書面を労働者に交付する。
B 磁気ディスク等に記録し、各事業場に労働者が記録の内容を確認できるパソコン等を設置しておく。


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2-2 合理的な理由なく労働条件を労働者に不利に変えることはできない
  前述のとおり、労働契約は、労働者と使用者の合意により成立しますが、より効率的な労務管理のために、就業規則によって統一的に労働条件を定めることがあります。
  労働契約法では、使用者が、合理的な内容の就業規則を労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が、労働契約の内容になると定めています(第7条)。
  労働者が働いていく中では、当初の労働契約から、労働条件が変更されることもあります。労働契約の変更は、労働者と使用者の合意が必要です(第8条)。使用者は、労働者の同意なく就業規則を変更することによって、一方的に労働者の不利益に労働条件を変更することはできません(第9条)。ただし、以下の場合については、就業規則の変更によって労働条件を変更することができます(第9条但書、第10条)。

@ 変更後の就業規則を労働者に周知すること。
A 就業規則の変更が、以下の事情などに照らして合理的なものであること。
・ 労働者が受ける不利益の程度
・ 労働条件の変更の必要性
・ 変更後の就業規則の内容の相当性
・ 労働組合等との協議の状況

  なお、就業規則とは別に個別に結んでいる労働契約の内容を不利益に変更する場合については、原則として労働者の同意が必要になります。

2-3 最低賃金の保障

  労働者は、働いて賃金を得て生活しているのですから、その賃金が低すぎては生活することができません。このようなことがないように、最低賃金法では、使用者が労働者を働かせたときに支払わなければならない賃金の最低額を定めています。
  平成20年6月現在、東京都最低賃金は時間額739円で、産業別最低賃金が適用されないすべての労働者とその使用者に適用されます。
  なお、最低賃金には、精皆勤手当、通勤手当や残業手当、臨時に支払われる賃金などは含まれません。

2-4 賃金支払いの5つの原則

  労働基準法では賃金の支払いについて次の5つの原則を定めています。(労働基準法第24条)。
@ 通貨払いの原則
  賃金は、法令又は労働協約で別に定めがある場合を除き、通貨で支払わなければなりません。口座振込みによって賃金を支払う場合には、一定の要件(労働者の意志に基づき、労働者の指定する本人名義の口座に振り込まれること、賃金の全額が所定の支払日の午前10時頃までには引き出せること等)を満たしていなければなりません。
A 直接払いの原則
  賃金は、労働者本人に支払わなければなりません。労働者が未成年者の場合も、親や後見人に支払ったり、代理人に支払うことはできません。
B 全額払いの原則
  賃金から、所得税や社会保険料など、法令で定められているもの意外を控除する場合には、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、これがない場合は労働者の過半数を代表する者との間に、労使協定を結んでおくことが必要です。
C 毎月1回以上払いの原則と、D一定期日払いの原則
  賞与などの臨時的に支払われるものを除き、賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払日を決めて支払わなければなりません。
また、使用者の責に帰すべき事由により労働者を休業させた場合には、使用者は平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。

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2-5 減給の定めの制限

  労働者が、職場規律あるいは企業秩序を乱した場合に、会社がその労働者を罰することを制裁といいます。制裁の種類には、口頭注意や始末書提出などの比較的軽いものから懲戒解雇にいたるまで、程度に応じて数種類定めていることが多いようです。このうち、労働者が規律違反したことを理由に、賃金の一部を減額することを減給といいます。
  例えば、遅刻や早退をしたときに、その時間の賃金を減額することはノーワーク・ノーペイの原則により違法ではありませんが、その時間を越えて賃金を減額したり、「遅刻したこと」又は「早退したこと」そのものを理由に、ペナルティとして賃金をカットすることは、制裁としての減給にあたります。
  減給の制裁を就業規則で定めるときには、減給する事案1件について、減給総額が平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。また、事案が複数回生じた場合であっても、個々の減給額の合計が一賃金支払い期における賃金総額の10分1を超えてはなりません。これを超えて減給する必要がある場合には、その次の賃金支払い期間まで減給を先送りしなければなりません。(労働基準法第91条)。

2-6 年俸制と賃金
  年俸制とは、会社が、労働者の能力や仕事の成果、将来への期待などを総合的に評価して、1年間の総賃金(年俸)に反映させる賃金制度です。
  「年俸制を採用すれば、残業代を支払わなくてすむ」と誤解している会社も多いようですが、原則的に年俸額とは年間所定労働時間だけ働いたときの賃金を想定していますから、時間外労働や休日労働を命じたときには、別途、割増賃金を支払う必要があります。
  もし、一定の金額を割増賃金分として含んだうえで年俸額を決定するのであれば、あらかじめ年俸○○円、うち割増賃金分○○円というように内訳を明らかにしておかなければなりません。
  また、実際に働いてみた結果、事前に決められた割増賃金分を超えて働いた場合にも、割増賃金の不足分を追加して支払わなければなりません。
  もちろん、年俸額が最低賃金額を下回ってはなりません。

2-7 会社が倒産して賃金が支払われないとき
  ━未払い賃金の立替払制度
  民法では、賃金や退職金などの労働債権は、他の債権者より優先して支払われる権利があると示しています。これを先取特権といいます(民法308条)。ですから、たとえ会社が倒産したからといっても、当然に賃金が支払われなくなるというわけではありません。しかし、支払われる権利があるとはいえ、会社が倒産したときに、何もしなくても賃金が支払われるという保障はありません。
  そこで、賃確法(賃金の支払いの確保などに関する法律)では、企業の倒産に伴って、賃金が支払われないまま退職した労働者の生活の安定を図るために、国(独立行政法人労働者健康福祉機構)が未払い賃金の一部を、事業主に代って退職労働者に立替えて支払う未払賃金の立替払制度を定めています。
  なお、この制度を利用しても未払賃金が全額支払われるわけではありませんし、すべての労働者の未払賃金が、この制度の対象となるわけではありませんので注意しましょう。(以下、労働者健康福祉機構ホームページより)

立替払を受けられる人
  立替払の対象となるのは、次の二つの条件を満たす労働者です。

@一年以上にわたって事業活動を行ってきた企業に労働者として雇用されていたが、企業の倒産に伴い退職し、未払賃金が残っている者(ただし、未払賃金の総額が2万円未満の場合は、立替払を受けられません)。
A裁判所に対する破産等の申し立て日(破産等の場合)又は労働基準監督署長に対する倒産の事実についての認定申請日(事実上の倒産の場合)の6ヶ月前の日から2年の間に、当該企業を退職した者。


立替払の対象となる未払賃金
  立替払いの対象となる未払賃金とは、退職日の6ヶ月前の日から労働者健康福祉機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している「定期賃金」及び「退職手当」であって、未払いとなっているものです。

立替払を受けられる額
  立替払を受けられる額は、未払賃金総額の100分の80の金額です。ただし、立替払の対象となる未払賃金の総額には限度額が設けられていますので、この未払賃金の総額の限度額の100分の80が、立替払をする額の上限となります。

退職時の年齢 未払い賃金の限度額 立替払いの上限額
45歳以上 370万円 370×0.8    296万円
30歳以上45歳未満 220万円 220×0.8    176万円
30歳未満 110万円 110×0.8    88万円

* 未払い賃金の総額が2万円に満たないときは、立替払の対象とはなりません。

立替払の請求手続き
  事実上の倒産の場合は、倒産した企業の本社を所轄する労働基準監督署長に、退職日の翌日から6ヶ月以内の間に、企業が倒産して事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払い能力がないことについての認定を申請します。認定の後、労働基準監督署長に認定の申請日、認定の日、退職日、未払賃金の額及び立替払額等についての「確認通知書」の交付を申請します。
  法律上の倒産(破産等)の場合は、裁判所、管財人等に、破産等の申立日・決定日、退職日、未払賃金額、立替払額、賃金債権の裁判所への届出額等を証明する「証明書の」交付を申請します。この証明が得られない事項については、労働基準監督署長に確認を申請します。
  これらの手続きによって、確認通知書、証明書の交付を受けてから、倒産した日(事実上の倒産の認定日、破産手続開始等の決定日)の翌日から2年以内に、労働者健康福祉機構に立替払の請求をします。

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2-8 男女雇用機会均等法
  憲法では、すべて国民は法の下に平等であることを保障しています(第14条)。男女雇用機会均等法では、この憲法の理念に基づき、募集、採用から定年、退職に至るまでのさまざまな場面において、労働者が性別によって差別されることなく、また、女性労働者にあっては、母性を尊重されながら充実した職業生活を営むことができるようにするための措置について、次のように定めています。

性別を理由とする差別の禁止(第5条、6条)
  事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません。
また、事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはなりません。

@ 配置(業務の配分・権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練
A 福利厚生(例:住宅資金や生活資金の貸付、住宅の貸与など)
B 職種・雇用形態の変更
C 退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新


間接差別の禁止(第7条)
  性別以外の事由を要件とする措置でも、次の3つの措置については、実質的に一方の性の構成員に不利益を与えるおそれがあることから、業務遂行上の必要などの合理的な理由がない場合には、間接差別として禁止されます。

@ 募集又は採用にあたって、身長、体重又は体力を要件とすること
A コース別雇用管理における「総合職」の募集又は採用にあたって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
B 昇進にあたり、転勤経験があることを要件とすること


女性のみに関する特例 ━ ポジティブ・アクション(第8条)
女性労働者が男性と比較して相当程度少ない(女性が4割を下回っている)雇用管理区分等において、支障となっている事情を改善するため、募集、採用、配置、昇進、教育訓練、福利厚生等に関して、女性に有利な取扱いをすること(ポジティブ・アクション)は違法ではありません。

婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(第9条)
  事業主は、女性労働者が婚姻、妊娠、出産したことや、産前産後休業を取得したこと、妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置を求めたこと等を理由として、解雇その他の不利益取扱いをしてはなりません。妊娠中及び産後1年以内の解雇は、事業主が「妊娠・出産・産前産後休業等による解雇でないこと」を証明しない限り、無効となります。

セクシュアルハラスメントに関する雇用管理上の措置(第11条)
  職場におけるセクシュアルハラスメントとは、職場の内外において行われる、他の者を不快にさせる性的な言動のことを言います。「性的な言動」をどのように受け止めるかは、個人間あるいは男女間で差がありますが、原則的には、受け止めた本人がセクシュアルハラスメントであると判断すれば、その言動はセクシュアルハラスメントにあたります。
  事業主は、女性に加え、男性に対するセクシュアルハラスメントも含めて、職場においてセクシュアルハラスメントが起きないように、雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。

〔事業主が講ずべき措置の内容(要約)〕(平成18年厚生労働省告示第615号)
@ 就業規則にセクシュアルハラスメントに関する事項を規定し、資料を配布したり、研修などを行うことにより周知・啓発を図ること
A 相談・苦情窓口を定めること。
B セクシュアルハラスメントが生じた際に、速やかに事実関係を確認し、適正に対処すること。
C 労働者のプライバシーを守ること、その旨を労働者に周知すること。
D 相談・苦情を申し出たことや事実関係の確認に協力したことを理由に、労働者に対して不利益な取扱いをしない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。


妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(第12条、13条)
  事業主は、妊娠中及び出産後の女性労働者に、母子保健法の規定による保健指導や健康診査を受けるための時間を確保しなければなりません。また、女性労働者が保健指導や健康診査等に基づく指導事項を守ることができるように、勤務時間の変更や勤務の軽減等(時差通勤、勤務時間の短縮、休憩時間の延長、作業の制限、休業等)の必要な措置を講じなければなりません。

男女雇用機会均等法にかかる紛争が生じたとき(第17条、18条)
  都道府県労働局長は、労働者と事業主との間の紛争について、当事者の双方又は一方から解決の援助を求められた場合には、助言、指導、勧告を行うことができます。
  また、紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合に、都道府県労働局長が紛争の解決のために必要であると認めたときには、紛争調整委員会において調停を行います。
これらの紛争解決の手続は男女労働者とも利用できます。

均等法の実効性を確保するために(第29条、30条、33条)
  厚生労働大臣及び都道府県労働局長は、男女雇用機会均等法の法律の施行にあたって必要があると認めるときは、事業主に対し、報告を求め、助言、指導、勧告をすることができます。厚生労働大臣の勧告に従わない事業主については、企業名の公表を行うことができます。
  また、厚生労働大臣が報告を求めたにも関わらず、事業主が報告しない場合、又は虚偽の報告をした場合は、罰則(過料)が科されます。

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2-9 母性を守るために  
産前産後の休業・生理日の休暇

 労働基準法や男女雇用機会均等法では、働く女性の母性を保護するための規定を設けています。

産前産後休業(労働基準法第65条第1項、第2項)
  出産予定の女性労働者は、出産予定日の6週間(多胎妊娠は14週間)前から、産前の休業を会社へ請求することができます。
  また、産後の休業は、出産の翌日から原則8週間で、会社に請求しなくても取得することが保障されています。産前・産後休業中の賃金は、必ずしも有給でなければならないという定めはありませんので、賃金が支払われるかどうかは、就業規則等の定めに従います。
  なお、労働者が健康保険の被保険者であれば、健康保険法に基づいて、出産手当金及び出産育児一時金が支給されます。

妊産婦の就業制限(同法第64条の3、第65条第3項)
  使用者は、妊産婦(妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性)に重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務、その他妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせることはできません。
  また、妊娠中の女性からほかの軽易な業務に変えてくれるように請求があったときは、業務を転換させなければなりません。
労働時間、時間外・休日・深夜業の制限(同法第66条)
  使用者は、妊産婦から請求があったときには、1週40時間、1日8時間を超えて働かせることはできません。また、妊産婦から請求があったときには、時間外・休日労働及び深夜業をさせてはなりません。

育児時間(同法第67条)
1歳に満たない子を育てる女性労働者から請求があったときには、休憩時間のほかに、1日2回それぞれ少なくとも30分の育児時間を与えなければなりません。

生理日の休暇(同法第68条)
  生理日の就業が著しく困難な女性労働者から休業の申し出があったときには、会社はその労働者を就業させてはなりません。
  厚生労働省の通達では、女性労働者から請求があったときには、原則的には特別の証明がなくても休暇を与えること、どうしても何らかの証明が必要であると判断される場合であっても、医師の診断書のような厳格な証明を求めるのではなく、例えば同僚の証言程度の簡単な証明で対応するよう示しています。
  また通達では、「使用者が就業規則に女性労働者が請求することができる休暇の日数を制限してはならないが、休暇のうち、有給扱いとする日数を定めておくことは差し支えない」と示しています。

2-10 パートタイマーにも労働法は適用される
  よく街中に貼られている募集広告を見ると、「主婦パート」「学生アルバイト」という表現を目にすることがありますが、法律的にはパート(タイマー)とアルバイトとはどのように異なるのでしょうか。
 「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(通称「パートタイム労働法」)で定義されている「短時間労働者」とは、「1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用されている通常の労働者と比べて短い労働者」のことを指しています。ですから、労働法上は、パートタイマーとかアルバイトという区別は特にしていないのです。ただし、会社によっては、パートタイマーとアルバイトで労働条件の違いがある場合もありますので注意しましょう。

パートタイマーも労働法が適用される
 パートタイマーも労働者ですから、労働基準法をはじめ、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働者保護法令が適用されます。また、育児・介護休業法や雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法などは、要件を満たしていれば適用されます。
 「パートタイマーには年次有給休暇を与えなくてよい」あるいは「パートタイマーは健康保険に加入させなくてよい」と思っている使用者もいるかもしれませんが、パートタイマーであっても要件を満たしていれば年次有給休暇を与えなければなりませんし、雇用保険や、健康保険・厚生年金にも加入させなければなりません。
 会社に就業規則などの定めがあれば、パートタイマーもこれにしたがって働きます。就業規則は、特段の定めがない限り、すべての就業員に同一の就業規則が適用されますが、パートタイマーなどに、正社員とは異なる労働条件を定めるのであれば、正社員向けの就業規則に特別な規定を設けるか、パートタイマー向けの就業規則を別途作成する必要があります。

パートタイマーの労働条件
 前述のとおり、労働基準法では、パートタイマーを含めて、労働者を雇い入れる際には、労働条件を明示することが使用者に義務付けられています。特に、重要な労働条件については文書で明示することとされていますが、パートタイム労働法では、これらに加えて、昇給・退職手当・賞与の有無についても文書により明示することを義務付けています。
 ところで、パートタイマーとして労働契約を結んだのにもかかわらず、実際には、労働時間や労働日数が、正社員とほとんど変わらないという労働者も多く見受けられます。
 「パート」という名前から「拘束時間が短くて済む」ということを期待しているパートタイマーも少なくありません。安易に残業や休日労働を命じればトラブルの原因となります。
 また、実態としては正社員と同様の働き方をしているのにもかかわらず、パートタイマーであるために正社員と同等の権利が行使できなかったり、恩恵が受けられないということがないように、使用者は、通常の労働者との均衡を考慮して処遇しなければなりません。


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第3章 労働時間と休日・休暇

3-1 労働時間は週40時間制が原則
  使用者は、労働者を、休憩時間を除いて1週40時間、1日8時間(これを法定労働時間といいます)を超えて働かせてはなりません(労働基準法第32条)。
  法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合には「時間外・休日労働に関する協定(36協定)」を締結する必要があります。
  なお、特例措置対象事業場(常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業及び接客娯楽業の事業場)では、1日8時間、1週44時間とする特例措置が認められています。

商業 卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業 映画の映写、演劇、その他興行の事業
保健衛生業 病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業 旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業

  *事業場の規模(人数)は企業全体の規模をいうのではなく、工場、支店、営業所等の個々の事業場の規模をいいます。

3-2 変形労働時間制

  労働時間の原則は1週40時間、1日8時間です。しかし、業務量に繁閑の波があり、ある程度、繁忙期と閑散期の周期を予測できる事業場においては、この原則を守ることにより、かえって業務の効率を悪くしてしまうことがあるかもしれません。 
  変形労働時間制は、労働者と使用者が、自らの工夫で労働時間を弾力化し、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって、労働時間を短縮することを目的とする制度です。

1ヶ月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)
  1ヶ月単位の変形労働時間制とは、1ヶ月以内の一定期間を平均して、1週間の労働時間が40時間(特例事業場は44時間)以下であれば、特定の日や週に、1日及び1週間の法定労働時間を上回る所定労働時間を設定することができる制度です。例えば、月初は比較的余裕があり月末に残業が多くなるような事業場では、月初には所定労働時間を短く、月末に所定労働時間を長く設定することによって、効率的な労働時間管理を行うことができるようになります。この制度は、就業規則に規定することによって導入できますが、労使協定を締結し、労働基準監督署長に届け出ることによっても導入できます。

1年単位の変形労働時間制(同法第32条の4)
  1年単位の変形労働時間制とは、1年以内の一定期間を平均して、1週間の労働時間が40時間以下であれば、1日10時間まで、1週52時間まで働かせることができる制度です。特に、特定の季節や特定の月などに業務が立て込んでいる事業場では、繁忙期には所定労働時間を長く、閑散期には所定労働時間を短く設定することで、年間の総労働時間の短縮を図ることができます。制度の導入にあたっては、労使協定を締結して労働基準監督署長に届け出ておくことと、就業規則等に明記しておくことが必要です。

1週間単位の非定型的変形労働時間制(同法第32条の5)
  1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、日によって業務に著しい繁閑が生じることが多く、しかも直前になるまで状況がわからないため、就業規則等に労働時間を定めておくことができない30人未満の小売店、旅館、料理店及び飲食店において、1週間の労働時間が40時間以下の範囲内であれば、1日10時間まで働かせることができる制度です。制度の導入にあたっては、労使協定を締結して労働基準監督署長に届け出ておくこと、就業規則等に明記しておくこと、前の週までに各日の労働時間を書面で通知することが必要です。

フレックスタイム制(同法第32条の3)
  フレックスタイム制とは、1ヶ月以内の一定期間(清算期間)の総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者がその範囲内で、各日の始業及び終業の時刻を自由に決められる制度です。フレキシブルタイム(いつ出社又は退社してもよい時間帯)とコアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を設ける場合には、その開始・終了時間を定めておかなければなりません。制度の導入にあたっては、労使協定の締結が必要です。

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3-3 みなし労働時間制
  使用者には労働時間を適切に把握する責務がありますが、常時社外にいる営業担当者や、仕事の進行管理を大幅に任せている研究員のように、労働者の担当職務によっては使用者の具体的な指揮監督が及ばないため、労働時間を正確に算定することが困難な場合があります。
  そこで労働基準法では、このような労働者を対象に、ある一定の時間だけ働いたものとみなす、みなし労働時間制の適用を認めています。

事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第38条の2)
  事業場外労働のみなし労働時間制とは、労働者が、営業など会社の外で仕事をするために労働時間の算定をすることが困難な業務について、通常の所定労働時間だけ働いたものとみなすという制度です。特段の定めがなければ所定労働時間を超えて働いたものとはみなされませんが、その業務を遂行するために、通常は所定労働時間を超えて働かなければならない場合には、「その業務の遂行に通常必要とされる時間」だけ働いたものとみなします。
  また、労使協定を締結したときには、その労使協定で定めた時間を「その業務の遂行に通常必要とされる時間」とみなします。

裁量労働制
 裁量労働制とは、業務の遂行手段や時間配分について、使用者が細かく指示するのではなく、労働者本人の裁量にまかせ、実際の労働時間数とは関係なく、労使の合意で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度です。裁量労働制には、次の2つのタイプがあります。

専門業務型裁量労働制(同法第38条の3)  専門業務型裁量労働制とは、専門性が高く、業務の遂行手段や時間配分に関する具体的な指示をすることが難しい業務については、労使協定で労働時間を定め、労働基準監督署長に届け出ることによって、実際の労働時間に関係なく協定で定めた時間だけ働いたものとみなす制度です。専門業務型裁量労働制の対象となるのは、次の業務で働く労働者です。

@ 新商品、新技術の研究開発又は人文科学、自然科学に関する研究の業務
A 情報処理システムの分析又は設計の業務
B 新聞や出版業務での記事の取材や編集又は放送番組制作のための取材や編集の業務
C 衣服、室内装飾、工業製品、広告などのデザイナーの業務
D 放送番組、映画などのプロデューサー又はディレクターの業務
E 厚生労働大臣が指定する業務(コピーライター、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェアの創作、証券アナリスト、金融アナリスト、大学での教授研究、公認会計士、弁護士、一級・二級建築士、木造建築士及び不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士)


企画業務型裁量労働制(同法第38条の4)
  企画業務型裁量労働制の対象となるのは、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析を、自らの裁量で行う労働者です。制度を導入しようとする事業場では、労使委員会を設置して、その5分の4以上の多数の決議によって制度の内容を決議し、労働基準監督署長へ届け出なければなりません。また、実際に制度を適用するためには、決議だけではなく、対象となる個々の労働者の同意を得ることなどが必要です。

3-4 休憩時間は全員いっせいに、その利用は自由に
  休憩時間とは、労働者の権利として、労働から離れることを保障している時間のことを言います。使用者は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中で与えなければなりません。
  労働基準法では、休憩時間について、次の3つの原則が定められています。(第34条)。

  休憩時間は
@労働時間の途中に  A一斉に  自由に利用させること

  休憩時間には、いわゆる「手待ち時間」(実際に作業していないけれども、業務の指示を受けたときにはすぐ就労できるようにするための待機時間)は含まれません。また事業場によっては、昼休み時間中の電話や来客に備えて、「昼休み当番」として労働者を待機させておくことがありますが、この場合、労働者は自由に休憩時間を利用することができませんので、使用者は、昼休み時間とは別に、休憩時間を与えなければなりません。
  また、運輸交通業、商業、通信業、接客娯楽業等については、業務の性質上、休憩時間を一斉に与えなくてもよいことになっています。その他の業種では、労使協定で、一斉に休憩を与えない労働者の範囲と休憩時間の与え方を定めておけば、一斉に与えないことも可能です。

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3-5 労働から離れる日  ━ 休日
  労働契約上、労働義務を免除されている日を休日といいます。使用者は、労働者に毎週少なくとも1回、あるいは4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません(労働基準法第35条)。労働基準法には、「何曜日を休みとしなければならない」というような定めはありませんが、労働条件明示の観点から、日曜日なら日曜日と休日を特定して、就業規則に定めておくことが必要です。
  ところで、使用者は業務の必要に応じて労働者に休日出勤を命じたり、また、その代わりに別の日に休みを与えたりすることがあります。この休みの与え方には二つの方法があり、ひとつは、事前に休日と労働日を変更しておく休日の振替、もうひとつは、単に休日出勤したことに対して恩恵的に休日を与える代休という方法があります。「休日の振替」と「代休」は似たような制度ですが、どちらの方法を選ぶかによって、割増賃金の支払い義務の有無や割増率など労働基準法上の取り扱いが異なってきます。

休日の振替
 労働日と休日を交換することを休日の振替といいます。「休日の振替」の場合、もとの休日が労働日になったので、休日に働かせても割増賃金を支払う義務は生じませんし、8時間を超えて働かせた場合も、通常の時間外労働の計算方法(2割5分増し以上)で計算した割増賃金を支払えばよいことになります。
 休日の振替を行うためには、次の要件が必要です。

○ 終業規則等に、「業務上必要が生じたときには、休日を他の日に振り替えることがある」等の規定をもうけること。
○ あらかじめ、休日を振り替える日を特定しておくこと。
○ 遅くとも、前日の勤務時間終了までには、当該労働者に通知しておくこと。

  休日の振替は、原則的には同一の週の中で行いますが、同一の週に予定どおり振替休日を取らせることができず、翌週に持ち越された場合は、〔図3〕のように処理することになります。
  なお、休日の振替について、就業規則等に定めがない場合には、労働協約の規定又は労働者の個別合意が必要です。

代休
  一般的に、休日労働や、長時間の時間外労働、深夜労働が行われた場合に、その恩恵的な措置として、他の労働日の労働義務を免除するものを代休といいます。代休は、必ず与えなければならないとうものでも、いつまでに代休を与えなければならないというものでもありません。しかし、体を休めることが代休の本来の目的ですから、なるべく早目に与えることが望ましいでしょう。
  代休の場合、改めて別の日に休みを与えても、休日労働をしたということに変わりはありませんので、休日労働した分の賃金は、休日労働の割増率(3割5分増し以上)で計算した割増賃金を支払わなければなりません(〔図4〕参照)。
  なお、休日労働したことによって労働義務を免除した代休日において、有給とするか無給とするかは、就業規則に定めておく必要があります。









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3-6 残業・休日労働
 労働時間は、1週40時間、1日8時間(法定労働時間)が原則です。使用者が、労働者に残業や休日労働を命じるためには、あらかじめ会社(工場や営業所に分かれているときはその事業場ごと)と、労働者の過半数が加入している労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数が加入する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者とのあいだに労使協定を締結し、これを労働基準監督署長に届け出ておかなければなりません。この労使協定のことを、労働基準法第36条に基づき36協定(サンロク協定、サブロク協定など)と呼んでいます。
 厚生労働省では、「時間外労働や休日労働は無制限に認めるべきものではなく、あくまで臨時的なものである」という趣旨から、「時間外労働の限度に関する基準」を示しています。36協定には、法定労働時間を超えて延長することができる上限時間を記入しますが、その時間は、最も長い場合であっても、この「時間外労働の限度に関する基準」で示した限度時間を超えることはできません。
 しかしならが、36協定を締結するだけでは、個々の労働者に残業や休日労働を義務付けることはできません。使用者は、36協定のほかに、労働協約や就業規則、あるいは個別の労働契約等において、「業務上の必要のあるときは36協定の範囲内で時間外労働や休日労働を命令できる」ということを明らかにしておくことが必要です。

 〔時間外労働の限度に関する基準〕
 @ 業務区分の細分化
   36協定の締結に当たっては、安易に臨時の業務などを予想して対象業務を拡大したりすることのないよう、業務の区分を細分化することにより時間外労働をさせる業務の範囲を明確にしなければなりません。
 A 一定期間の区分
   労使は36協定で、1日についての延長時間のほか、1日を超え3ヶ月以内の期間及び1年間についての延長時間を定めなければなりません。
 B 延長時間の限度
   36協定で定める延長時間は、最も長い場合でも、次の表の限度時間を超えないものとしなければなりません。

 ○ 一般労働者の場合
期間 限度時間 . 期間 限度時間
1週間 15時間 1ヶ月 45時間
2週間 27時間 2ヶ月 81時間
4週間 43時間 3ヶ月 120時間
. . 1年間 360時間

 ○ 対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者の場合
期間 限度時間 . 期間 限度時間
1週間 14時間 1ヶ月 42時間
2週間 25時間 2ヶ月 75時間
4週間 40時間 3ヶ月 110時間
. . 1年間 320時間

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3-7 残業・休日労働の割増賃金
  使用者が、労働者を@法定労働時間を超えて働かせたとき(時間外労働)、A法定休日に働かせたとき(休日労働)、B午後10時から午前5時までの深夜に働かせたとき(深夜労働)には、政令で定められた割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。時間外労働と深夜労働の割増率は2割5分以上で、休日労働の割増率は3割5分以上となっています(労働基準法第37条第1項・第3項)。

時間外労働と割増賃金の計算例
  例えば、所定労働時間が7時間の労働者に、1時間残業をさせた場合、その1時間は法定労働時間(1日8時間)内の残業(法廷内残業)であることから、その1時間については通常の賃金(時給1,000円の場合)1,000円を支払えばよく、法内残業であっても割増賃金を支払うかどうかは、会社の判断に任されます。
  法定労働時間を超えて働かせたときには、超えた時間について、使用者は通常の時間単価の2割5分増し(時給1,000円の場合)1,250円以上の賃金を支払わなければなりません。
  また、深夜(午後10時から午前5時まで)に働かせたときには、2割5分増し以上、休日(1週1回又は4週4日の法定休日)労働をさせたときには3割5分増し以上の割増賃金を支払わなければなりません。時間外労働と深夜労働、休日労働と深夜労働が重なったときは、次のモデルのように割り増しされます。



割増賃金の算定基礎除外部分
 次の手当は割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外できます(同法第37条第4項、同法施行規則第21条)。

@家族手当 A通勤手当 B別居手当 C子女教育手当 D住宅手当E臨時に支払われた賃金(結婚祝金、見舞金など突発的な事由によるもの)F1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与又はそれに類似するもの)

  ただし、家族手当、通勤手当、住宅手当は、どの労働者にも一律に支払われるような手当である場合には、割増賃金の基礎として参入します。

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3-8 年次有給休暇は労働者が自由に利用できる
  働かなければならない日に休んだら、その分の賃金は支払われないというのが原則ですが(ノーワーク・ノーペイの原則)、年次有給休暇は、所定の休日以外に仕事を休んでも、賃金を支払ってもらうことができる休暇です。年次有給休暇は、要件を満たしていれば、法律上、当然に生じる権利であって、労働者の請求を待って初めて生じるものではありません。また、会社は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしてはなりません(労働基準法第136条)。

年次有給休暇の付与日数
  使用者は、労働者を雇い入れてから6ヶ月間継続勤務していて、全労働日(雇用契約や就業規則等で労働日として定められている日)の8割以上勤務した労働者には、少なくとも10日間の年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条第1項)。10日間の年次有給休暇は、何回かに分けて与えても、まとめて与えてもかまいません。同じ会社で働き続ける場合には、少なくとも最高20日間になるまで、勤務年数に応じて加算した年次有給休暇を与えなければなりません(同条第2項)。
〔年次有給休暇の付与日数〕

勤続年数 6ヶ月 1年6ヶ月 2年6ヶ月 3年6ヶ月 4年6ヶ月 5年6ヶ月 6年6ヶ月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

  6ヶ月に満たない短期契約を結んでいる労働者であっても、契約を更新して、6ヶ月以上継続して勤務するようになった場合には、使用者は、年次有給休暇を与えなければなりませんし、さらに継続雇用が続くときには、6ヶ月を超えて継続勤務をした1年ごとに、新たな年次有給休暇を付与しなければなりません。

年次有給休暇の取得と時季変更権
  年次有給休暇を取得するには、事前に取得希望日を申し出ることが必要ですが、利用目的は問われることはありません。使用者は労働者が請求した日に、年次有給休暇を与えなければなりません(同条第4項)。
  ただし、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、使用者は、年次有給休暇を他の日に変更する権利があります(同条第4項但書)。これを時季変更権といいます。
  ここでいう「事業の正常な運営を妨げる」というのは、「誰がみても、そのときに労働者に会社を休まれたら、会社が正常に運営できない」という具体的な事情があるときです。ですから、単に忙しいからという理由だけで、労働者が休みたい日に休ませない、ということはできません。
  なお、あらかじめ労使で協定を結び、休暇の計画的付与を行うことができます。ただし、計画的付与の対象とすることができるのは、各労勝者の持っている年次有給休暇の日数のうち、5日を越える部分に限ります。

年次有給休暇の時効
  年次有給休暇の時効は付与日から起算して2年です(同法第115条)。
  年次有給休暇をその年度内に全部とらなかった場合、残りの休暇は翌年度に限り請求することができます。

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3-9 パートタイマーなどへの年次有給休暇の比例付与
  労働基準法では、パートタイマーなど、週の所定労働時間が短い労働者についても、6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合には、年次有給休暇の対象となります。たとえば、1回の雇用期間が1ヶ月や3ヶ月など、雇用期間を定めて雇い入れる場合であっても、契約更新によって6ヶ月以上勤務したときには、所定労働日数に応じて年次有給休暇を比例付与しなければなりません(労働基準法第39条第3項)。
  比例付与の対象となるのは、週の所定労働時間が30時間未満で、所定労働日数が週4日以下の労働者です。パートタイマー等であっても、@週の所定労働時間が30時間以上の労働者、A週所定労働日数が5日以上(または1年間の所定労働日数が217日以上)の労働者については、通常の労働者と同じ日数の年次有給休暇を与えなければなりません。
〔パートタイマー等への年次有給休暇の付与日数〕

短時間労働者の週所定労働時間 短時間労働者の週所定労働日数 1年間の所定労働日数(週以外の期間によって、労働日数を定めている場合)継続勤務期間に応じた年次有給休暇の日数 継続勤務期間に応じた年次有給休暇の日数
8ヶ月 1年
6ヶ月
2年
6ヶ月
3年
6ヶ月
4年
6ヶ月
5年
6ヶ月
6年
6ヶ月以上
30時間以上 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日
30時間未満 5日以上 217日以上
4日 169日〜216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日〜168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日〜120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日〜72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日



第4章 育児・介護休業法
4-1 育児関連
  育児休業及び介護休業については、育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)で定められています。
  育児休業は、原則として1歳に満たない子を養育する労働者からの申し出により、子の1歳の誕生日の前日までの期間で、一人の子につき原則1回取得することができます。ただし、次の場合には、子が1歳6ヶ月に達するまで、育児休業が延長できます。

・保育所に入所を希望しているが、入所できない場合
・子の養育を行っている配偶者であって、1歳以降子を養育する予定であった者が、死亡、負傷、疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合

  休業期間を有給にするか、無給にするかは、就業規則等の定めに従います。また、雇用保険に加入している労働者には、国から給付金が支給されます。

育児休業の対象者(第5条、第6条第一項)
  育児休業は、男女労働者とも事業主に申し出ることにより休業することができます。
  ただし、「日々雇用される労働者」は対象から除外されます。
  また、労使協定により、次の労働者を対象から除外できます。

・雇用されてから1年未満の者
・配偶者が常に子供を養育できる者。ただし、配偶者が産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間以内の場合、又は配偶者が病気で子の養育ができない場合は除外できない。
・休業申し出から1年以内に雇用関係が終了する者
・1週間の所定労働日数が2日以内の者

  なお、「期間を定めて雇用される労働者」についても、1年以上の雇用実績があり、かつ育児休業を終了した後も引き続き雇用されることが明らかな場合など、一定の条件を満たせば、育児休業の取得が可能です。

育児休業の申し出等の手続き(第6条第3項、第7条第1項、第3項、第8条第1項、第2項)
  休業の申し出は、休業の開始予定日・終了予定日など、一定の事項を示して1歳までの育児休業については1ヶ月前までに、1歳から1歳6ヶ月までの育児休業については、1歳の誕生日の2週間前までに行う必要があります。なお、休業申し出の撤回は、休業開始予定日の前日までであれば、理由を問わずに行えますが、1度撤回すると、同じ子について、原則として再度休業の申し出はできません。

事業主の義務(第6条第1項、第10条)
 対象となる労働者から育児休業の申し出があったときには、事業主は、これを拒むことはできません。また育児休業の申し出をしたことや、実際に育児休業をとったことを理由として、労働者を解雇したり、次のような不利益な取り扱いをしてはなりません。

・退職するように強要すること、正社員からパートタイマーなどに契約内容を変更するように強要すること
・期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
・自宅待機を命じること
・降格させること
・減給や、賞与等で不利な算定を行うこと
・不利益な配置換えを行うこと
・就業環境を害すること

 
時間外労働の制限(第17条)
  小学校に入学する前の子を養育する労働者は、1ヶ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を免除してもらうように請求することができます。

勤務時間短縮等の措置(第23条第1項、第24条第1項)
  事業主は、1歳に達するまでの子を養育しながら働いている労働者に対しては、労働者からの申し出に基づき勤務時間を短縮する等、働きながら子育てをしやすくするための措置を講じなければなりません。この措置は、一定期間、育児休業した後で、職場に復帰した労働者に対しても適用されます。
  また、1歳から3歳に達するまでの子を養育しながら働いている労働者に対しては、労働者からの申し出に基づき、育児休業を延長したり、勤務時間を短縮するなど、働きながら子育てをしやすくするための措置を講じなければなりません。
  さらに、3歳から小学校に入学するまでの子を養育しながら働いている労働者に対しては、育児休業の制度又は勤務時間短縮等の措置に準じて、次のとおり、必要な措置を講じるように努めなければなりません。

  〔勤務時間の短縮等の措置〕
・短時間勤務制度
・フレックスタイム制
・始業・終業時刻を繰り上げ、繰り下げる制度
・所定労働時間を超えて労働をさせない制度
・託児施設の設置運営その他これに準じる便宜の供与


看護休暇(第16条の2、第16条の3)
  事業主は、小学校に就学する前の子を養育する労働者から申し出があったときには、子どもが怪我をしたり、病気になったときに世話をするための看護休暇を、年次有給休暇とは別に与えなければなりません。日数は子の人数にかかわらず、労働者1人につき1年に5日です。有給か無給かは労使の取り決めによります。育児休業とは異なり、配偶者が専業主婦(夫)である労働者も、看護休暇を取得できますが、労使協定により勤続6ヶ月未満の労働者及び週の所定労働日数が2日以下の労働者を対象外とすることができます。

労働者の配置に関する配慮(第26条)
  事業主は、義務教育終了前の子を持つ労働者を転勤させようとするときには、子の養育の状況を把握し、労働者本人の意向を十分に汲み取り、転勤させた場合に子の養育を行える代替手段があるかどうかなどの配慮をしなければなりません。

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4-2 介護関連

介護休業制度
  介護休業は、負傷、疾病、身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたって常時介護を必要とする状態(「要介護状態」といいます。)にある家族を介護するための休業です。対象となる家族一人につき、最長で通算93日間、複数回休業することができます。介護休業の対象となる家族は、その労働者の配偶者、父母、子、配偶者の父母、同居しかつ扶養している祖父母、兄弟姉妹、孫です。
  休業期間を有給にするか、無給にするかは、就業規則等の定めに従います。また、雇用保険に加入している労働者には、国から給付金が支給されます。

介護休業の対象者(第11条、第12条第2項)
  介護休業は、男女労働者とも事業主に申し出ることにより休業することができます。
  ただし、「日々雇用される労働者」は対象から除外されます。また、労使協定で定めた場合は、次の労働者を対象から除外することができます。

・雇用されてから1年未満の者
・休業の申し出から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな者
・1週間の所定労働日数が2日以内の者

  また、「期間を定めて雇用される労働者」についても、1年以上の雇用実績があり、かつ介護休業終了後も継続して雇用されることが明らかである場合など、一定の条件を満たせば、介護休業の取得が可能です。

介護休業の申し出等の手続き(第11条第2項、第13条、第14条第1項)
  休業の申し出は、休業の開始予定日・終了予定日など、一定の事項を示して、2週間前までに行う必要があります。また、休業終了予定日は、理由を問わず、1回だけ繰下げ変更ができます。なお、休業の申し出の撤回は、休業開始予定日の前日までであれば理由を問わずに行えます。

事業主の義務(第12条第1項、第16条)
  対象となる労働者から介護休業の申し出があったときには、事業主は、これを拒むことはできません。また、介護休業の申し出をしたことや、実際に介護休業をとったことを理由に労働者を解雇したり、次のような不利益な取り扱いをしてはなりません。

・退職するように強要すること、正社員からパートタイマーなどに契約内容を変更するように強要すること
・期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
・自宅待機を命じること
・降格させること
・減給や、賞与等で不利な算定を行うこと
・不利益な配置換えを行うこと
・就業環境を害すること

時間外労働の制限(第18条)
  要介護状態にある家族を介護する労働者は、1ヶ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を免除してもらうように請求することができます。

勤務時間短縮等の措置(第23条第2項、第24条第2項)
  事業主は、要介護状態にある家族を介護しながら働いている労働者に対しては、労働者からの申し出に基づき、勤務時間の短縮など、働きながら家族を介護しやすくするための措置を講じなければなりません。
  また、家族を介護する労働者に対しては、介護休業の制度又は勤務時間短縮等の措置に準じて、その介護を必要とする期間、回数に配慮した必要な措置を講じるように努めなければなりません。

労働者の配置に関する配慮(第26条)
  事業主は、労働者を転勤させようとするときに、転勤によって、働きながら家族を介護することが困難となる労働者がいるときには、労働者の家族の介護の状況を把握し、労働者本人の意向を十分に汲み取り、転勤させた場合に労働者が家族の介護が行える代替手段があるかどうかなどの配慮をしなければなりません。

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第5章 派遣労働


5-1 派遣労働とは
  派遣労働とは、雇用契約を結んだ会社(派遣元)が労働者派遣契約を結んでいる依頼主(派遣先)へ労働者を派遣し、労働者は派遣先の指揮命令にしたがって働くという働き方です。
  派遣先は、労働者から労務の提供を受けた後に派遣元に派遣料金を支払い、派遣元は、派遣料金の中から派遣労働者へ賃金を支払います。
  派遣労働は、雇用契約を結んだ会社の指揮命令で働く一般的な働き方とは異なり、指揮命令をする会社と賃金を支払う会社が別であるため、いろいろな問題が生じることがあります。
  そこで、派遣労働者の雇用の安定、福祉の増進を図るため、労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)及び派遣元指針(派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針)、派遣先指針(派遣先事業主が講ずべき措置に関する指針)を定め、派遣元と派遣先がそれぞれ講じるべき措置等を示しています。

登録型派遣労働者と常用型派遣労働者
  派遣労働は、労働者の契約形態によって登録型と常用型の二つのタイプに分けられます。
  登録型派遣労働者は、派遣元に氏名や希望する業務、スキル等を登録しておき、仕事が発生したときにだけ派遣元と雇用契約を結び、派遣先で働きます。およそ8割の派遣労働者が、登録型派遣労働者です。一方、常用型派遣労働者は、派遣元と常に雇用契約を結んでいる状態で、派遣先で働きます。

労働者派遣と請負
  派遣労働と間違えやすい働き方としては、請負があります。請負とは、請負業者が注文主と請負契約を結んで仕事を引き受け、請負業者が雇用する労働者を指揮命令して、請負業者の責任で完結させるものです。労働者派遣と異なり、請負の場合は、業務の遂行に関する指示、労働時間管理に関する指示等については、請負業者が自ら行います。
  「派遣労働者として働いていると思っていたら、実は請負契約だった。」ということもあります。会社と契約を結ぶときには、契約内容をよく確認することが大切です。

5-2 派遣労働の類型
派遣労働者の種類
1 派遣受入期間の制限のない業務
いわゆる26業務
  専門的な知識、技術、経験を必要とする業務又は特別の雇用管理を必要とする業務で、政令で定めた26業務については、派遣受入期間の制限はありません。

    〔派遣受入期間の制限のない26業種〕
1 ソフトウエア開発                        2 機械設計
3 放送機器等操作                        4 放送番組等演出
5 事務用機器操作                        6 通訳、翻訳、速記
7 秘書                                       8 ファイリング
9 調査                                       10 財務処理
11 取引文書作成                         12 デモンストレーション
13 添乗                                     14 建築物清掃
15 建築設備運転、点検、整備         16 案内・受付、駐車場管理等
17 研究開発                               18 事業の実施体制の企画・立案
19 書籍等の製作・編集                 20 広告デザイン
21 インテリアコーディネーター          22 アナウンサー
23 OAインストラクション                  24 テレマーケティングの営業
25 セールスエンジニアの営業、金融商品の営業
26 放送番組等における大道具・小道具

いわゆる3年以内の有期プロジェクト業務への派遣
  事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のために必要な業務で、一定期間内で完了することが予定されている業務への派遣については、その業務が完了するまでの期間であれば、受入期間の制限はありません。
日数限定業務
  1ヶ月間に行われる日数が、派遣先の通常の労働者への所定労働日数の半分以下で、かつ10日以下であるような業務への派遣については、派遣受入期間の制限はありません。
出産・育児・介護休業取得者にかわる代替労働者の派遣
  従業員が、産前産後休業や育児・介護休業を取得するときに、代わりの従業員を補充するための派遣労働者の受け入れは、派遣受入期間の制限はありません。

2 派遣受入期間の制限のある業務
臨時的・一時的な業務
  臨時的・一時的な業務として、一般事務や営業職などに従事する派遣労働者については、最長3年の範囲で受け入れが認められていますが、1年を超えて受け入れる場合には、派遣先の過半数労働組合などから意見聴取をすることが求められています。
A 「物の製造」業務への派遣
  製造業のうち直接製造工程に係る業務への派遣については、最長3年の受け入れが認められていますが、1年を超えて受け入れる場合には、派遣先の過半数労働組合などから意見聴取をすることが求められています。

雇用契約申込義務
  派遣受入期間の制限のない業務について、3年を超えて同一の労働者を同一の業務に受け入れている場合、この同一の業務に新たに労働者を雇い入れるときは、派遣先はまず、その派遣労働者に雇用契約を申し込むことが義務付けられています。
  また、派遣受入期間の制限のある業務について、派遣受入期間制限に抵触する日以降も派遣労働者を使用しようとする場合、派遣先は、それまで働いてきた派遣労働者に対し、派遣先との直接雇用契約を申し込まなければなりません。

派遣が禁止されている業種
  @港湾運送業務、A建設業務、B警備業務、C医師、歯科医師、看護師等の医療関係業務は、派遣労働者の受け入れが禁止されています。ただし、医療関係業務については、紹介予定派遣の場合は、派遣労働者の受け入れが可能です。

紹介予定派遣
  紹介予定派遣とは、派遣期間の終了後、派遣元から派遣先に、派遣労働者を職業紹介することを予定して派遣就業させるというものです。
  紹介予定派遣の場合に限っては、派遣就業が終了した後にスムーズに直接雇用へと移行することができるように、派遣就業開始前の面接や履歴書の送付及び求人条件の明示や採用の内定等を行うことができます。
  派遣受入期間は6ヶ月までとなっています。紹介予定派遣の労働者に対しては、採用後、試用期間を設けることはできません。

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第6章 労働組合

6-1労働組合はどんな団体か
  労働組合とは、「労働者が、労働条件の維持改善を主な目的として、自主的・民主的に運営する団体」です。
  労働組合はまた、会社内のことだけでなく、社会保障制度や税金などの問題にも取り組んでいます。なぜなら、賃金や労働時間など、その会社の中の労働条件を良くすることだけでは、労働者の生活が守られない状況にあるためです。
  労働条件の維持改善のためには、会社との交渉が必要ですが、労働者個人では、対等に交渉することはなかなかできません。
  そこで、憲法では、労働者が対等な立場で会社と交渉することができるように、労働者が労働組合を結成し、交渉する権利を保障しています(憲法第28条)。

  〔憲法で保障されている「労働三権」〕
@ 労働者が団結する権利(団結権)
A 労働者が使用者と交渉する権利(団体交渉権)
B 労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権(争議権))

  憲法で掲げられた権利を、具体的に保障する目的で作られたものが労働組合法です。
  会社が、労働者を雇い入れるときに、労働組合に入らないことを条件としてはならないということは前に述べましたが、労働者が労働組合に加入したり、労働組合を作ろうとしたり、労働組合の正当な行為をしたことを理由に会社が、その労働者を解雇したり、賃金や賞与などをほかの人と差別したり、条件の悪い転勤や、配置転換を行うなど、労働者の不利益になる取り扱いをしてはなりません(労働組合法第7条第1号)。このような、労働者の団結する権利を侵す会社の行為を不当労働行為といいます。

労働組合の結成について
  労働者は、誰でも、自由に労働組合をつくることができます。労働組合を結成したことをどこかに届け出たり、誰かに承認してもらう必要はありません。
  「うちの会社には労働組合がない」という人も多いでしょう。なせなら、日本の労働組合の大多数は企業別組合で、そのほとんどが、比較的大きな企業の正社員のみを組合員としていることが多いからです。
  雇用形態の多様化で、正社員が減少する一方、パートタイマー、派遣労働者、契約社員といった労働者が増えています。また、セクシュアルハラスメント、職場のいじめなど、労使をめぐるトラブルは年々複雑化する傾向にあります。
  こうした労働環境の変化に対応するために、近年、コミュニティユニオン、地域合同労組、一般労組など、個人でも加入できる労働組合が増えています。労働組合のない会社の従業員であっても、コミュニティユニオンなどに加入し、組合員になることで、労働組合を通じて、会社と団体交渉をすることができ、また、団体交渉を通じて、さまざまな問題を解決することが可能となっています。

不当労働行為
  労働組合が正当な活動をしたことを理由に、会社がその労働者を不利益に取り扱うことは、不当労働行為にあたります(同法第7条第1号)。
  次のような行為は、不当労働行為として禁止されています。

@ 労働者に対し、労働組合員であることなどを理由として不当な扱いをすること。
A 労働組合に加入しないことを採用条件とすること。
B 理由なしに団体交渉を拒否すること。
C 労働組合の活動に介入したり、経費援助したりすること(組合事務所の供与等は経費援助とはならない)。

  労働組合は、不当労働行為にあたる行為があったときは、労働委員会(東京都の場合は東京都労働委員会)へ、会社のそのような行為をやめさせる命令を出してもらうために申立を行うことができます。
  労働委員会は、労働組合からの不当労働行為の申立に基づいて調査し、それが事実であることが明らかになれば、会社に不当労働行為に当たる行為をやめるように命令を出します。
  命令が確定したのに、会社が従わないときは、使用者に罰金が科せられます(同法第32条)。

6-2 労働組合の要件
  労働組合は一つの団体ですから、労働組合を結成しようとするときは、2人以上の組合員がいることが必要ですが、すでに述べたように、労働組合がその機能を果たすためには、過半数以上のできるだけ多くの従業員で結成することが望ましいといえます。団体であれば、その団体を代表する人がいて、団体のいろいろなことをどうやって決定するか、しくみをどうするかなどを決めておくことも必要になるでしょう。
  ところで、労働組合法では、労働組合が、労働組合法の保護(不当労働行為の救済制度もその一つです。)を受けるためには、次の要件を備えていなければならないとしています(労働組合法第2条)。

@ その労働組合が、労働者が主体となってつくられていること。
A 労働者が自主的に運営していること。会社の指示にしたがって活動するようなことはなく、労働者が自らすすんで活動すること。
B 労働条件の維持改善を主な目的としていること。

  労働組合に使用者側の人が入っていたり、会社から、労働組合としての活動に必要な経費を援助してもらっているときには、この要件にはあてはまりません。また、組合員が結婚したり、災害に遭ったときに祝金や見舞金を出すというような共済事業だけを目的としている団体や、選挙運動のような政治活動だけを目的としている団体も除きます(同法第2条但書)。
  会社が、労働組合の活動に必要な経費を援助することは不当労働行為にあたります。なぜなら、労働組合のいろいろな活動が、会社のお金でまかなわれていたのでは、労働組合の本来の目的である労働条件の維持向上のための活動が自由に行いにくくなり、団結した意味が失われてしまうからです。
  ただし、@勤務時間中の団体交渉・労使協議の有給保障、A福利厚生基金への援助、B最小限の広さの事務所の供与は、労働組合の自主性を損なわず、経費援助にあたらないとしています。
  実際には、労働組合は、共済事業や、政治運動も行っていますが、あくまでも労働条件の維持向上が主目的で、ほかの活動はそれに付随するものとして行われているので違法とはいえません。なお、労働組合が共済事業に対して、会社からの寄付を受けることは差し支えありませんし、不当労働行為にもあたりません(同法第2条第2項但書、同法第7条第3号但書)。

「労働組合規約」の作成
  労働組合が、不当労働行為の救済など、労働組合法上の保護が受けられるためには、労働組合のいろいろな活動が民主的に行われていることも要件の一つです。会社には就業規則(社内規定と呼ぶ会社もあります。)が定められていますが、労働組合にも、そのしくみをどうするか、いろいろなことをどういう方法で決めるか、ということを定めた「規定」が必要です。その規定を労働組合規約といいます。労働組合規約には、労働組合の活動が民主的に行われるように、次のことを定めておかなければなりません(同法第5条第2項)。

  〔労働組合規約に定めなければならないこと〕
@ 労働組合の名称。
A 主たる事務所の所在地。
B 組合員の全員が、労働組合のあらゆる問題に参加でき、差別的取扱いをうけないこと。
C 組合員はいかなる場合も、人種や宗教、性別、身分などの違いで、組合員としての資格を奪われないこと。
D 役員の選挙は、組合員又は代議員の直接無記名投票で行うこと。
E 総会は、少なくとも毎年1回開くこと。
F 組合費など労働組合の財源やその使いみちなどの経理状況を、少なくとも毎年1回、組合員に公表すること、この場合、公認会計士などの資格を持っている人に監査してもらい、間違いないという証明書をつけること。
G ストライキは、組合員又は代議員の直接無記名投票を行って、その過半数の賛成がなければ行わないこと。
H 規約を改正するときは、組合員又は代議員の直接無記名投票を行って、投票をしなかった人や無効の投票を含めた全組合員又は全代議員の過半数の賛成を得ること。

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6-3 労働組合のいろいろな活動
  ━団体交渉など
  労働組合の活動にはいろいろなものがありますが、団体交渉はその中でも重要なものです。
  たとえば、賃金引上げ交渉の場合、毎年4月がその会社の賃金を改定する時期ならば、労働組合は、1月か2月ごろに団体交渉の準備を始めます。労働組合は、賃金闘争の一環として、上部の労働組合や、その地域の労働組合と連絡をとりあい、協力しあって活動をすすめます。
  労働組合では、会社の経営状況はどうか、自分たちの生活水準や賃金水準はどうかなど、資料を集めたり、勉強会を開いたりします。そして大会を開いて、会社にどのくらいの賃金引上げを要求するのかを決め、会社への要求提出から解決するまでのスケジュールなども決めます。その決め方は、その労働・

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